空気が読めなくてもそれでいい。細川貂々 水島 広子


生きづらさの正体に気がついた作者が、精神科医と話すことで自分を知り社会適応への対処法を見つけていく

私のクリニックにも発達障害を心配して受診する方が増えています。

昨今の流行かADHDを心配して受診する方が多いのですが、そういう方の中にASDタイプを疑わせる方もいらっしゃいます。発達障害は主にASDタイプとADHDタイプに分かれます。この本はASDタイプについて詳しく描かれた本です。以前はアスペルガー、いまは自閉症スペクトラムと呼ばれる発達障害です。障害まで行かないグレーゾーンを含めた言い方として、非定型発達という言葉をこの本では用いています。自閉症スペクトラムは空気を読むことが苦手、という特性を持ちます。微妙なニュアンスや人の心の裏を読み取ることが得意ではないのです。そのことによって社会から浮いてしまったり、相手を怒らせてしまったり、というトラブルが起こりがちです。そうした悩みを診察室で打ち明けられることもあり、何とか社会に適応できるように、と私も考えます。しかし、そもそも空気なんて読む必要があるのだろうか、という思いも同時に私の中にあります。この人はそのままで十分魅力的なのに。

過剰に空気を読むことを求める社会が浮き彫りにした、その方の特性という言い方もできると思います。社会がこんなにも全員に空気を読むことを求めなければこうした特性は露わにならないまま流れていくのではないでしょうか。変わらなければならないのはその方々ではなく、社会の方ではないか、という思いが湧いてきます。社会を形成している一員として、今後考えていくべき課題だと私自身も思っています。

ただ、なかなかすぐに社会が変わるのは難しいでしょうから、そうした特性を持ったまま目の前の方が適応していく方法を考えて行かなければなりません。この本の最終章は「トリセツ」としてその方法についていくつかの提案がなされています。常にこれらが正解というわけではないでしょうが、社会が変わらない状態で、本人が変わるのも難しい、という前提に立っての提案には大いに共感が持てます。適応のために特性を全て抑えるのは困難だし、無理があるし、そうするべきでもありません。言葉を用いて周りに理解を促す方法がここでは提案されます。周りが理解していれば「空気が読めなくてもそれでいい」のです。

上手くいったその時に少しだけ変わっているのはやはり、社会の方かもしれませんね。

森の本棚

森に巣箱を置くように、こころの森しらいしクリニックには幾つかの小さな本棚が設えてあります。そこに並べられた本たちについて少しずつ紹介します。入れ替わりがあるので見当たらなければスタッフや院長にお尋ね下さい。 こころの森しらいし クリニック https://www.shiracl.com